『土偶を読むを読む』 - 書庫らでん11月推薦図書

ショート感想(Xより)

前書き

こちらは、儒烏風亭らでんさんが実施されている「#書庫らでん」という企画に乗っかった感想記事になります。

今回の記事では、11月の推薦図書の1冊、「土偶を読むを読む」を取り上げます。

感想

読む前のあれこれ

「土偶を読むを読む」。

タイトルをはじめて見て最初に感じたのは、「え・・・土偶?しかも読むを読むって何?」ということでした。コメントを見るに、おそらく大半のでん同士(らでんさんのファンネーム)は同じことを思っていたでしょう……。

これは主に、私が「土偶を読むを読む(以下、本書)」の種本である「土偶を読む」を知らなかったことに所以します。

本書の冒頭から引用すると、「土偶を読む」は以下のような書籍らしいです。

二〇二一年四月二十四日に晶文社から出版された『土偶を読む』という書籍が評判だ。出版から二年近く経ちそれでもなお売れ行きは好調なようだ。(「はじめに(P.2)」より)

(内容に触れている部分はある意味ちょっとしたネタバレ?なので、あえて冒頭のこの部分だけ。)

「はじめに」を読むにSNSでもそこそこバズったようですが、私はまったく存じ上げませんでした。

そして、知らないということは、らでんさんがなぜこの本を選んだかということにも見当がつかないということ。

タイトルを見た瞬間にらでんさんの選出意図を見抜き、「あー、そーいうことね。完全に理解した」となれる優秀なでん同士でありたかったです。うえーん。

という冗談はさておき、タイトルをはじめて見たときの感想に戻りまして。

「ふむ、つまり『土偶を読む』の副読本的なものってことか」

というのが、次に考えたことでした。

「じゃあ『土偶を読むを読む』を読む前に『土偶を読む』を読んだ方がいいってことか〜〜〜?なかなかにハードだねぇ。」

などと考えていた、のも束の間。

らでんさん曰く、

「『土偶を読む』は読まなくていいです。理由は、『土偶を読むを読む』を読めばわかります。」

とのこと(そこそこ意訳してます)。

以下、心の声。

「ほう。らでんさんがそう言うなら、読む必要はないな。しかし、副読本であろうはずなのに、種本を読む必要がないとは。種本の内容をやさしく噛み砕いたのがこの本で、種本よりもダンゼン読みやすいのでこの本からで大丈夫、とかそんな感じなのかな。配信でいろいろな層に向けて紹介する本だし。」

また、本書の難易度については、「お高め」とのこと。

「じゃあ、3冊全部読みきってやるぜ、うぃーと考えている私のような人間は見積りを誤って月末に悲惨なことにならないためにも、この本から読むべきだな。小説なら1日で十分読み切れるしな。うん。」

そんなことを考えながら、配信中におもむろにAmazonでポチり。普段はkindle派ですが、これまでの経験を踏まえて本書は紙で購入(他の推薦図書はkindle版を選択)。結果的に、正しい判断だったと思います。

読了後のあれこれ

ひとことで感想を言うなら、

「へぇ……。土偶なかなか面白いやん……。」

これです。

本書の前半は、「土偶を読む」に対する検証に終始します。

世間では評価された『土偶を読む』が、なぜ考古学界では評価されなかったのか。

また、どういう論証で「土偶の正体」に迫っているのか。

これらの検証が約170ページにわたり繰り広げられます。

普通に考えて、種本を読んでおらず、また土偶にまったく興味がない私のような人間にとって、細やかな検証に付き合うというのはなかなかにつらい時間です。そんな時間であるはずでした。

しかし、本書は読者にそれを感じさせません。考えたのですが、おそらく以下が主な要因かなと思います。

  • ユーモア(毒?)を交えながらすすむ検証
  • 土偶の説明が丁寧で興味がもてる
  • (土偶に限定されない)研究者としての在り方の一例を検証を通して示せている
  • 執筆者の土偶、縄文時代への愛が伝わってくる
  • ここでは特に1点目と2点目に関連していくつか言及します。本書では「検証」をしてるはずなのに、随所に笑えるポイントがあります。ただし「これ絶対に意図的に笑わせにきてるだろ」というのではなく「執筆者が本当に思っていることをベースに、笑えるツッコミとして文章化にしている(または、そう読者がそう思わせられている……?!)」のがポイント。

    読みながら笑えたポイントをいくつか抜き書きしていたのですが、その中でも特に面白かった部分を3つほど。

    (ミミズク土偶について)極端に頭でっかちで、どこか賑やかな造形、週末のパーティー会場で出会ってもそれほどの違和感はない。(「検証 土偶を読む(P.72)」より)

    突拍子もない文章すぎて、最初に読んだときには笑わなかった部分です。「著者の人はそれだけ土偶が好きなんだなぁ。うんうん、伝わってる伝わってる。」と思いながら微笑ましい気持ちで図10(P.71)をよく見てみると……。

    「えぇ!ガチで楽しげじゃん!でもって、なんかかわいい!……かわいくない?」

    と感じました。感じてしまいました。

    感じることができてしまいました。

    土偶に対してかわいいと思う感情をもったのはこれが生まれて初めて。初体験でした。なんか悔しい。よくわからないけど。

    そう思いながら、改めて引用元の文章を見てみると。

    なるほど、確かにパーティー会場で出会っても違和感はなさそうだ。むしろ小一時間くらいおしゃべりしてみたいまである。

    そんなふうに納得しながら、なんか、すんなり読めてしまいました。

    笑いました。

    (なぜ土偶がこのデザインになったかを考えるには、土偶の系統を過去に遡ってデザインの変化の分岐点を探し、そのポイントごとにモチーフの影響を探すことが重要だ、と説く文章に続いて)その上で「ミミズク土偶=イタボガキ論」を検証してみると、そもそもミミズク土偶、カキに似ているか?と初っ端から躓く。なんだよ全然似てないじゃん、と、そこで終わってしまいそうになるのだが、めげずに考えてみたい。(「検証 土偶を読む(P.73)」より)

    唐突に出てくる「なんだよ全然似てないじゃん」、それに続く「めげずに考えてみたい」という文章のパワーに、おもわず笑ってしまいました。

    これがモチーフです、というためにはモチーフが土偶のデザインに影響を与えたってことをちゃんと確かめないとね!じゃあ見てみよう!みたいな感じで真面目に考え始めようとしていた矢先。どうやら種本は真面目に考えられる土台すら容易には与えてくれないようです。

    そんな種本に対する、執筆者の「憤り」を通り越して「諦め」となった感情がひしひしと伝わってくる文章でした。笑いました。

    これは読み取れない読者が「縄弱」だからではない。(「検証 土偶を読む(P.85)」より。「情弱」に傍点)

    これは読んだまま、「縄弱(縄文時代弱者)」と「情報弱者(情弱)」をかけた高度なギャグになっています。初見時、意味がわからなくて4、5回読み直したのは内緒。笑いました。

    ギャグ自体もですが、

    「これは縄文時代の熱烈なファンの間では誰にでも通じるネタなのだろうか。それにしても縄文時代の熱烈なファンって、総称してなんて呼べばいいんだ。ファンネームみたいなものってあったりするのか。」。

    そんな余計なことまで気になった、クスリと笑える一文でした。

    (この縄弱については、この引用箇所より前にも記述があった気がしていたのですが…メモを忘れていて探せませんでした。そもそもあったかも怪しいので、探すのはやめてここから引用ということにさせていただきます。記憶が新しいうちに、感想は書くべき。教訓です。)

    🐾

    本書の後半は、「土偶を読む」をそっちのけに(ところどころで言及はされてます)、縄文時代の有識者たちのインタビューや対談を通して縄文時代と土偶について普通にお勉強しましょうという内容になっていました。

    前半に比べると比較的骨太な内容です。

    最初に目次を見たときは「ええ……。あんま興味ないよ。ってか、長いよ。ま、奥深い内容ではありそうだから一応読むけどさ」くらいに思っていた。のですが……。

    人間の思考、考えというのは、結構簡単に変わってしまうものです。

    前半を読んで「土偶、なんかええやん?」となっている私にとっては、ほぇええ、なんか面白そう!となってしまうような内容が目白押し!

    土偶研究、かなり奥深いです。実に面白い。

    あと、(ちょっと不本意ながらも)「土偶を読む」で広まった縄文時代への注目を利用したい、そして前半部分で土偶に興味をもった縄文初心者たちもなんとか沼に引き込みたいという、謎の力強さも感じました。ハングリー精神とでもいうのでしょうか。熱意がすごい。

    この後半に関しては、詳細な感想は控えておきます。(おそらくらでんさんが一番読んで感想が欲しかった部分は前半だろうという推測もありつつ……。)

    普通に月末が近くて、書いている時間が惜しいというのが一番大きい。あと2冊、感想書かなきゃいけないから!!!

    🐾

    そんなわけで、以上、「土偶を読むを読む」の感想でした。

    縄文時代って、自分が思っていた以上にわからないことだらけの謎の多い時代なんだということがわかりました。ただ、これまで積み上げてきた研究から、確からしい、もしくは明らかに誤りであると思われる事実はあるわけで。普段使うのとは別の文脈で、「巨人の肩に乗る」ことの重要さを再認識しました。

    最後に、簡単に一言。

    あれこれ考えたけど、まぁ、最終的にはこの言葉に尽きるのかなと思います。

    土偶、なんかいいよ!!!!

    特に、ミミズク土偶が、いいよ。

    ← TOPへ戻る